大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

秋田家庭裁判所大曲支部 昭和40年(家)320号 審判

申立人 山田治郎(仮名)

主文

本件申立を却下する。

理由

申立人は、

仙北郡○○村役場備付

(1)  本籍仙北郡○○村○○○○字○○○○一二番地、筆頭者小高哲男の除かれた戸籍のうち、

六男治郎の身分事項中「山田チヨコと婚姻、妻の氏を称する旨届出、昭和二八年一月二一日受付、○○村○○○○字○○○○一二七番地に新戸籍編製につき除籍」とあるを「小高キヌと婚姻、妻の氏を称する旨届出、昭和二八年一月二一日受付○○村○○○○字○○○○○一二七番地に新戸籍編製に付除籍」と訂正し、

(2)  本籍同上筆頭者小高一男の戸籍のうち、

二女キヌの身分事項中「山田友二と婚姻、妻の氏を称する旨届出、昭和二六年二月一一日受付、仙北郡○○村○○○○字○○○○一二番地に新戸籍編製につき除籍」とあるを「小高治郎と婚姻、妻の氏を称する旨届出、昭和二六年二月一一日受付、仙北郡○○村○○○○字○○○○一二番地に新戸籍編製につき除籍」と訂正し、

(3)  本籍同上筆頭者小高キヌの戸籍のうち、

(イ)  筆頭者キヌの身分事項中「山田友二と婚姻届出、昭和二六年二月一一日受付、仙北郡○○村○○○○字○○○○一二番地小高一男戸籍より入籍」とあるを、「小高治郎と婚姻届出、昭和二六年二月一一日受付仙北郡○○村○○○○字○○○○一二番地小高一男戸籍より入籍」と訂正し、

(ロ)  長女栄子および二女滝子の各身分事項中「父小高友二」とあるを「父小高治郎」と、父の欄に「小高友二」とあるを「小高治郎」と夫々訂正し、

(4)  本籍仙北郡○○村○○字○○三七番地の二三、筆頭者山田チヨコの戸籍のうち、

(イ)  戸籍事項中、「仙北郡○○村○○字○○三九番地の二三に転籍、山田治郎同人妻チヨコ届出昭和三七年四月二一日受付」とあるを「仙北郡○○村○○字○○三九番地の二三に転籍、小高友二同人妻チヨコ届出、昭和三七年四月二一日受付」と訂正し、

(ロ)  筆頭者チヨコの身分事項中、「小高治郎と婚姻届出、昭和二八年一月二一日受付、○○村○○○○字○○○○○一二七番地山田左平戸籍より入籍」とあるを「山田友二と婚姻届出、昭和二八年一月二一日受付、○○村○○○○字○○○○○一二七番地山田左平戸籍より入籍」と訂正し、

(ハ)  夫治郎の身分事項中、「昭和二八年一月二一日山田チヨコと婚姻届出、○○村○○○○字○○○○一二番地小高哲男戸籍より入籍」とあるを「昭和二八年一月二一日小高キヌと婚姻届出、○○村○○○○字○○○○一二番地小高哲男戸籍より入籍」と訂正し、

(ニ)  長男良男の身分事項中「昭和二九年九月二八日本籍で出生、父山田治郎届出同年一〇月五日受付入籍」とあるを、「昭和二九年九月二八日本籍で出生、父小高治郎届出同年一〇月五日受付入籍」と、父の欄に「山田治郎」とあるを「小高治郎」と夫々訂正し、

(ホ)  二女智子の身分事項中「昭和三五年七月六日本籍で出生、父山田治郎届出同月一三日受付入籍」とあるを「昭和三五年七月六日本籍で出生、父小高治郎届出同月一三日受付入籍」と、父の欄に「山田治郎」とあるを「小高治郎」と夫々訂正する。

ことを許可する、との審判を求め、その理由として、

前記(1)の除かれた戸籍および(4)の戸籍には申立人は昭和二八年一月二一日山田チヨコとの婚姻届出受理の旨および同夫婦間に長男良男および二女智子が出生した旨の記載があり、又前記(2)および(3)の戸籍には山田反二は昭和二六年二月一一日小高キヌとの婚姻届出受理の旨および同夫婦間に長女栄子、および二女滝子が出生した旨の記載がある。

しかしながら、申立人は昭和二八年一月二一日山田チヨコと婚姻した事実、および山田友二は昭和二六年二月一一日小高キヌと婚姻した事実はいずれもなく、かえつて申立人は昭和二八年一月二一日小高キヌと事実上の婚姻をし、その間に長女栄子および二女滝子が出生し、又山田友二は昭和二六年二月一一日山田チヨコと事実上の婚姻をしその間に長男良雄および二女智子が出生したものである。

よつて本件戸籍の記載は法律上許されないものであるから訂正の許可を求める、というにある。

よつて按ずるに、本件記録添付の戸籍謄本五通によれば、申立人主張のとおりの戸籍記載が存することが認められる。

ところで前掲戸籍謄本五通および申立人審問の結果によれば、申立人は昭和二八年一月二一日頃その姪に当る小高キヌと事実上の婚姻をして同棲し、その間に栄子および滝子が出生したのであるが、申立人と小高キヌとの婚姻届出をなすときは、それが近親婚禁止の規定に触れて受理されないため、その届出をなさず、かえつて山田チヨコと婚姻した如く仮装の本件婚姻届出をしたものであること、又山田友二は昭和二六年二月一一日頃その姪に当る山田チヨコと事実上の婚姻をして同棲し、その間に良雄および智子が出生したのであるが、やはりその婚姻届出をなすときは、それが近親婚禁止の規定に触れ受理されないため、その届出をなさず、かえつて小高キヌと婚姻した如く仮装の本件婚姻届出をしたものであることが夫々認められ、右事実によれば、申立人と山田チヨコとの本件婚姻および山田友二と小高キヌとの本件婚姻は夫々当事者間に婚姻意思を欠いているので無効のものであること、しかし申立人と小高キヌならびに山田友二と山田チヨコとは夫々事実上の婚姻をしたに過ぎず、その婚姻の届出をし受理されたことはないものであることが窺われる。

しかるところ、婚姻届出をなすに当り、その届出書に婚姻当事者の氏名を誤記したに過ぎない場合には、かかる婚姻届出は本来記載されるべきであつた当事者間の婚姻届出として有効であり、かかる婚姻届出によりなされた戸籍記載は戸籍法第一一三条、又は第一一四条の規定により訂正することができると解す余地があるけれども、本件各婚姻届出は申立人らにおいてその内容を認識したうえなしたものであるから、本件戸籍記載は誤記があるものということには当らないし、又申立人と小高キヌおよび山田友二と山田チヨコ間の各婚姻が成立したものと見ることはできない。

なお、戸籍法第一一三条、又は第一一四条による戸籍訂正は訂正事項が軽微であつて親族、相続法上の身分関係に何ら影響を及ぼすべき虞のない場合に限り許されるものであつて、本件の如き婚姻の無効による婚姻事項の消除、父の変更等の訂正は親族、相続法上重要な影響があるから、前示の如く明らかな誤記の場合を除き、戸籍法第一一三条、第一一四条による訂正は許されず、同法第一一六条所定の確定判決又は審判により消除又は訂正すべきものと解するのが相当である。

しからば、本件申立はいずれも理由がないのでこれを却下することとしよつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 磯部喬)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例